セミナーは植物のトランスポゾンについてで、トランスポゾンの挿入によって起こる突然変異が、植物の適応的な変異にも強く関連しているという内容だった。TE accumulation lineを使ったデータ解析で、とにかくデータの量が多い。ヒストンバリアントと選択的なTE転移や、実際にそれが適応的変異につながっていそうなことが示されていたが、遺伝子の選択性が「適応に関与する遺伝子」に向いているのか、それらの遺伝子がopen chromatinになっているのかについては厳密に検討される必要があるだろう。でも、とにかくデータが多く面白い話だった。
セミナーの後は研究室でいろいろと話をしてから、だいぶ夕方になって帰った。京大の遺伝の部屋からも先生が来て、主にトランスポゾンについてずっと話をしていた。話していることがTEの話オンリーで難しく、ついていくのに苦労した。
研究の比重変化 ベンチからコンピュータへ
昼ごはんを食べながら雑談していた時に、研究環境の話だとか学生の就職の話だとかいろいろした。インフォマティクスの教育はどこも課題があり、苦労もあることがわかった。「今の学生はパソコンよりスマートフォンが好きなんだよ」と言ったら笑っていた。聞いていて面白かったのが、「昔は実験室のベンチが一人一つ与えられて、居室に共用コンピュータが一台という体制だったのが、今は一人に一台コンピュータで、実験ベンチが共用になってるよ」という趣旨の話だ。これは、自分の実感にもあっている。自分の学生の時の出身ラボはデータ解析の比重が高かったので、コンピュータも一人一台(以上)になっていたが、実験がメインの研究室の場合、ラボのPCを共用で使っているところもあった。もちろん分野にもよるが、今のオミクス系研究だと、コンピュータでデータを処理している時間がとても長いように感じるし、そこの部分の重要性が以前に比べてはるかに増している。バイオインフォマティクスやプログラミング等の技術に加えて、統計学の知識も重要だね、というような話を先生たちもしていた。生物系の学部でこれらを、従来からの遺伝学やゲノム科学的な講義と一緒にどういう風に教えていけば良いのかは、まだまだ課題が多いのではないかと思う。単純にコンピュータ科学系の人が教えればいいわけでもなく、生物系で需要が高い技術を教えたり、生物データに対応づけられて講義される方がいいみたいだ。数年前に出身校の先生と話していても、そういう風に学部向けの演習がシフトしていると聞いた。
データ解析のところが重要になっているのは間違いないが、データの取得元である生物を見る方の知見や実験も疎かにできない。どちらかに特化した専門的な人はこれまでもこれからも重要だが、そのほかの人でも自分の研究題材に合わせてどちらも分かるとか、インフォマティクスも必要なことは自分でできることが必要なのだと思う。生物がわかる人がちゃんと解析の技術を身につけていくこと、それを講義するノウハウを蓄積することが重要だと思う。