三体のストーリーの中で、「人類の科学の進歩」が重要なキーワードになっている。その中でも「人類の基礎科学のレベルが上がること」を危惧した三体星人により、量子物理学で使われる加速器の結果をでたらめにして無効化してしまう「智子(sophon)」が地球に送り込まれる。作品では、物理学などの基礎科学が文明の発展にいかに重要か、それをめぐる地球人と三体人との攻防が描かれている。なんとなく中国の人たちの科学感や期待が感じられるような気がする設定だと思った。
科学技術レベルが国の覇権にとって重要なのは確かだ。そして、現実世界では基礎科学でも欧米や日本が中国にいづれ追い付かれ追い越されていくであろうことを予感させるような話が出てきている。
先端科学 中国先行に危惧
欧米「日本で次世代加速器建設を」 8000億円、日本は負担懸念
日本経済新聞 朝刊
生命科学の分野でも日本は中国に急速に追い上げられ、一部ではすでに劣後しつつあるのではないかと思う。もちろん基礎科学は文化的な側面もあり、これまで培われてきた欧米の科学研究の風土がなくなってしまうわけではないと思う。しかし、あらゆる分野で覇権を握ろうという意思があり、予算的なバックアップをしている中国に、今後はいろんな分野で追いつき追い越されていくのかもしれない。
日本で科学技術に関係した職についており、日本の科学研究の上での地位が低下していくことに、危機感と寂しさを感じるのは否定できない。だが、一方では、こうした地位の逆転は今までにも度々起こってきたことなのだろうし、人類の科学そのものの停滞を意味するわけではないだろう。日本はただ沈んでいくのではなく、これまでの遺産を生かしながら、科学研究の世界でそれなりの地位を守っていくことを真剣に考えないといけない時期かもしれない。