2019年9月21日土曜日

MinIONの稼働開始

ナノポア社のMinIONが研究室に導入されたが、コントロール用のPCも納入され、いよいよ本格的に稼働するようになった。最初の用途は、研究室で進められているアブラナ科植物の細胞融合個体やコムギ-オオムギ染色体添加系統におけるゲノム構造変異の検出で、ライゲーションベースのプロトコルを用いてDNA-Seqをすることになる。
MinIONは、制御用のコンピュータにそこそこのスペックを要求する。選定を頼まれたので色々考えたが、コマンドライン操作が特段の設定なく容易にできて、アップデート等の保守が楽という考えからMac mini(2018)を選んだ。これまでのMac miniより大幅に能力が上がり(値段も上がり)、シークエンス後の解析にも使いやすくなっていると思う(ただし拡張性はない)。後からメモリもストレージも増やせないので、MinIONに必要な条件より多少積み増して32GbRAMにした。CPUは8th Core i7 3.2GHz、SSDは1TBにした。データが増えてきたら、外付けのSSDで対応しようと思っている。

ナノポアのシークエンサーについてのプロトコルは、機材を購入した上で、登録したコミュニティサイトにアクセスしないと基本的に得られないようになっているようだ。サイトにログインすると色々なプロトコルや最初にやるチュートリアルなどの情報が得られる。概ね見やすく情報が整理されているように感じた。


実験室の片隅を借りて、MinION解析用のベンチを即席で作った。macが奥に鎮座し、その前に実験スペースが作られるというこれまでとちょっと変わったベンチになった。横に、小型の卓上遠心機とVortex、Qubitを置いている。

 電源につないでみると、MinIONの側面の排気口っぽいとこにLEDがついていて解析中はずっと点灯していたのが、なんとなくかっこよかった。


 シークエンスのラン前にgDNAをライゲーションするが、操作自体は簡単だった。ただ、最初のうち慣れないと目安の70分よりかはだいぶん時間がかかった。基本的にプロトコルの通りに手作業していけばよかった。一番問題になるのはDNAの抽出と精製のステップだろう。ナノポアのサイト内にも、植物の場合のDNA抽出方法のプロトコルが一つ置いてあった。基本的にはCTAB法でとって短い断片を取り除く精製を行うという感じのようだ。日本ジーンが取り扱っているShort Read Eliminator XSも購入された。投入DNAの濃度が25-150ng/ulに指定されており、それを下回ると収量が悪いと書いてあるので、抽出の際のElution Buffer量には注意が必要だし、場合によっては濃縮してやらないといけないだろう。前回、同じくロングリードのPacBioシーケンサーでシークエンスした際は、別の研究室のDNAプチVacをお借りして遠心しながらヒートして濃度を調節した(関係ないけれど、この製品はもう販売終了になったらしい。結構便利だと思っていたので残念)。



MinIONは本体は制御用の電子回路っぽい機械で、実際の流路や読み取りのナノポアがあるのは本体にセットするフローセルの方だ。こちらは黒いパックに入っており、使い終わった後の返却用の説明書?っぽいものも同封されていた。



 実際にフローセルをセットしてみたところ。黄色っぽい四角いところにナノポアがあるらしい。反対側にあるくねくねしたところが廃液が流れていくところ。チュートリアルでは、とにかくエアバブルを入れるなと注意していて、空気が流路に入るとナノポアが使えなくなってしまうらしい。なんとなく、キャピラリーシークエンサーでエアバブル抜きをしてい当時のことを思い出してしまった。あの頃もエアバブルを混ぜてしまって失敗するというケースがたまにあった。こちらはフローセルごとダメにしてしまうようで、ちょっと注意が必要。


 操作して行ってる途中で、なんとなく小さな泡が見えるような気がしてとても心配だったが、シークエンス自体はアクティブなポアを見る限りちゃんとできているようだ。使用後にフローセルを洗って保存しておく時にもバッファーをロードしなくてはならないが、ここでも同様にエアバブルを入れないように最初に吸い取る作業をしなければならない(ラン後にここをちょっとまちがえてしまった気がする。このフローセルがどうなってしまっているのか、何かのサンプルで検証してみたいと思う)。

 ネットで見つけたフローセルの解説図。Priming portからエアバブル発生防止のための吸い出しをしなければならない。また、ここには書いていないようなのだが、廃液が流れるところの最初の方のところにもWaste portがあり、ここからでも廃液を捨てることができる。

解析中はCPU使用率はユーザー側のものが跳ね上がっており100%に近い稼働になっていた。一方でメモリプレッシャーにはまだ余裕がある印象だった。とにかくずっとMacminiのファンが唸って熱い排気を出していた。結構頑張って働いてるんだなと思った。シークエンスが終わっても、PC側ではBasecallが続くのでPCは動いたままになる。

最初にチュートリアルとしてLambdaDNAをシークエンスした時に手間取ったのは、クラウドベースの解析ソフトの使用方法だった。PC側のfastq等の出力ファイルをアップロードして解析してくれるEPI2MEというアプリケーションもチュートリアルにしたがって導入していたのだが、初期設定で指定されているディレクトリとデータが吐き出される場所が異なっていたらしく、最初全然アップロードされなかった。Library/MinION下のところにデータが出てくるディレクトリがあったが、そこを直接指定するとエラーになった。少し検索してみると、アクセス権の問題があるようだった。ファイルをホームディレクトリ下に作ったディレクトリにおき、そこを指定すると、解析が始まった。
実際には、fastqファイルまたはfast5ファイルを得たら、後のマッピングやアセンブル等は手元のコンピュータで行うことになりそうなので、あまり使う機会はないかもしれない。

今後植物のgDNAをいろいろ抽出し、精製方法も変えた場合にどのような結果になるか、最初のうちはいろいろと比較しながら、楽に抽出精製して使用に耐えるデータを出せる条件を掴みたいと思う。